新燃岳の生い立ちと過去の火山災害現在の状況の解説用語解説Q & A
新燃岳噴火のやさしい解説

 2011年1月に始まった新燃岳の噴火は享保噴火(1716-17)、明和噴火(1771)、文政噴火(1822)以来最も大きな噴火と言われており、未だ終息には至っておりません。噴火による被害を軽減するためには気象庁や各自治体が出す情報を適切に理解して行動することが肝心です。このホームページは火山の専門家による噴火情報のやさしい解説を目指しています。

 新燃岳の生い立ちと過去の火山災害

 霧島火山は日本に100余りある活火山の一つで気象庁による常時監視観測の対象となっています。霧島火山は西北西から東南東に延びた地域に多数の火山体が集まっているのが特徴です。これらの中で御鉢と新燃岳は歴史時代に噴火記録があります。新燃岳の享保噴火では高温の噴出物が降り積り、火砕流も繰り返し発生して死者5名、焼失家屋600軒余りとの記録が残っています。明和噴火では火口内に高温の溶岩がプールのように溜ったことや火砕流が発生して山火事になったことが記録されています。山頂火口内部は中心に向かって階段状の崖が繰り返していますが、溜っていた溶岩が地下に吸いもどされてしまったときにできた地形のようです。山頂に大きな火口をもつ美しい円錐形の新燃岳の山体は主に享保と明和の噴火の噴出物が積もってできたものと思われます。山麓には有史以前に繰り返された噴火で溶岩流が火口から流れ下ってできたと思われる崖の地形も多数残っています。新燃岳の西側斜面と山頂火口の底には明和噴火以後に繰り返された噴火でいくつかの小火口ができていました。1959年の小噴火で山林や耕作地に噴石や降灰による被害が出ています。2011年の噴火が始まるまでは山頂火口の底に池がありました。  [2012/6/28 宇井忠英(北大名誉教授)]

 現在の状況の解説(この項目の内容は噴火の進行につれて随時書き換えます)

 2012年6月26日に開催された気象庁の噴火予知連絡会で新燃岳の今後に見通しが検討され、新聞・テレビで報道されました。昨年12月以降の種々の観測データからは新燃岳の地下ではマグマの供給が停止し、火口での活動も低下していると推測されるが、今後マグマの供給が再開される可能性がまだ残っており、噴石や火山灰を放出する噴火に警戒が必要とのことです。http://www.jma.go.jp/jma/press/1206/26d/yochiren120626-1.pdf
福岡管区気象台・鹿児島地方気象台は噴火警戒レベルを3(入山規制)のまま継続し、山規制の範囲を火口から2kmに縮小すると発表しましたが、まだ安全宣言が出たわけではありません。http://www.jma.go.jp/jp/volcano/forecast_05_20120626180010.html [2012/6/27宇井忠英(北大名誉教授)]

 用語解説

 気象庁や火山噴火予知連などの発表には学術用語がしばしば登場しますので、用語の解説をしておきます。[2011/2/27 宇井忠英(北大名誉教授)]

1 火山灰・降灰

 噴火が起こると火口から上空に灰色の噴煙が噴き上げられます。噴煙は上空の風に流されて、風下ではあたりが暗くなり火山灰が降り始めます。降灰とよばれる現象です。火山灰は火山から噴き出した岩の細かな粉です。災害区域予測図には火山灰が降る厚さを円で表示してありますが、実際には噴火した時の上空の風向きを反映して火口よりも風下方向に集中して火山灰が降ります。
 降灰があっても生命の危険はないので避難する必要はありません。火山灰をたくさん吸い込むとのどから肺までの呼吸器をいためてしまいます。また眼に入ると角膜を痛めてしまうことがあります。降灰のために大気がよごれているときに外出する場合はマスクやゴーグルを着用するとよいでしょう。火山灰がコンピューターなどの電子機器の隙間から内部に侵入して電子回路を痛めてしまい故障する可能性があります。そういうトラブルを避けるためには室内への火山灰の侵入を減らす工夫をすると良いでしょう。
 噴火が激しいと火山礫(かざんれき)と呼ばれる石の粒が降ってくることがあります。火山礫が自動車の窓ガラスにぶつかって壊れることもあります。火山礫が降るような状況の時は屋外に出ないようにしましょう。止むを得ない場合はヘルメットを着用して頭を守りましょう。
 噴火の影響で飛行機が飛ばないことがあります。火山灰が混ざっている噴煙の中をジェット機が飛ぶと、エンジンが損傷して最悪の場合は墜落する可能性があるからです。エンジン内部で火山灰が溶けて水あめ状になり、燃料の噴射口をふさいでしまいエンジンが停止してしまうのです。

2 噴石

 噴火の際に火口から飛び出して、弾道飛行をしたり風に流されたりして地上に落ちてくる岩の破片を噴石と呼んでいます。 噴石の直撃を受けると建造物は破壊され、人々は大けがをしたり死亡したりします。
 新燃岳の噴火では火口の底が新しい溶岩でふたをしたような状態になってしまいました。
 地下からでてくる火山ガスがふたにより閉じ込められ、次第に内部の圧力が高くなって、ついにはふたの一部をこわして噴煙とともに噴石が飛び散ることを繰り返しています。斜め上空に向かって噴煙が上がると、その先の方角の地上にだけ噴石が飛んできます。急に噴煙が立ちのぼった時は噴煙がどの方角傾いているのか確かめましょう。
 災害区域予測図では火口から4kmまでは握りこぶし大の噴石が飛来する可能性があることを円で示しています。
 写真右は2000年有珠山噴火の噴石の直撃で壊れた幼稚園(撮影:宇井忠英)、左は高千穂河原に落ちていた噴石(撮影:前田終止)です。

3 火砕流・火砕サージ・熱風

 高温の溶岩のかけらと火山灰、そして溶岩から分離した火山ガスとが混ざり合って流れる現象を火砕流といいます。多くの火砕流は500℃を超える高温で、時速100kmを超えることがあります。火砕流から細かな礫や火山灰と火山ガスだけが更に遠くまで流れ広がるのが火砕サージ(熱風)です。火砕流や火砕サージにより樹木や建物は倒壊し、炎上してしまいます。
 雲仙普賢岳の噴火では溶岩ドームが崩れて火砕流が発生しました。しかし、新燃岳の噴火では火砕流が発生する仕組みが違います。マグマの破片が大量にまざった噴煙が発生し、その一部が上昇しきれずに崩れ落ちて、新燃岳の斜面を火砕流として流れ下る可能性があるのです。今回の噴火が始まって以来見聞きしたことがない大きな噴煙が上がったら要注意です。
 江戸時代の噴火の噴出物の分布から予測した火砕流の最大規模の分布範囲が、新燃岳の災害予測図に茶色で書かれています。赤紫に塗られている溶岩流の予想範囲は茶色の上に重ねて書かれてしまっていますから、赤紫の場所も火砕流の予想分布範囲です。その周りの黄色に塗られた範囲が最大規模の火砕サージ(熱風)に覆われる予想範囲です。新燃岳の現在の状況では、最大規模の火砕流の発生に至る可能性は低いと判断して立ち入り規制の範囲を火口から4kmに留めています。
 写真は雲仙普賢岳の噴火に伴う火砕サージにより立木がなぎ倒され家屋が火砕サージの熱で引火して炎上した状況です(撮影:宇井忠英)。

4 溶岩・溶岩流

 火口から出てきたマグマが粉々にならずに地表に出てきた赤熱状態のものや、冷えて固まった岩を溶岩といいます。溶岩が流れて広がったものを溶岩流といい、あまり流れ広がらずに火口の周りで盛り上がったものを溶岩ドームといいます。今回の新燃岳の噴火では火口の底に出てきた溶岩は火口の底に広がっただけで溶岩ドームとして盛り上がったり、火口からあふれだして山麓に流れ下ることは、今のところなさそうです。
 写真は伊豆大島1986年噴火で流れ下った溶岩流です(撮影:宇井忠英)。

5 火山泥流・土石流

 様々な大きさの火山噴出物の破片が水と一緒に流される現象が火山泥流です。火山泥流が発生する原因はいくつかありますが、新燃岳では降雨により発生します。降り積もった軽石や火山灰などで山腹が覆われると雨水がしみ込みにくくなり、その後の大雨で火山泥流が発生するのです。火山泥流は洪水と同じく低いところに向かって流れます。火山泥流に襲われると、木造家屋は破壊されたり埋まったりしてしまいます。どれくらいの雨が降れば火山泥流が発生するのかはっきり示すのは困難です。雨の降り方は地形の影響を受けて一様ではないし、雨量の観測点は限られているからです。雨が降りそうなことは天気予報でわかるので、万一を考えて自治体から避難勧告がでます。もしも避難をしないでいるうちに火山泥流が発生してしまったら、火山泥流災害をこうむる危険性が指摘されている地区では速やかに近所の高い場所に逃げましょう。川沿いの道路を通って避難所に向かおうとして火山泥流に巻き込まれる可能性があるからです。なお、火山の専門家は火山泥流、あるいは泥流という用語を使いますが、日本の土砂災害の専門家や技術者は土石流という用語の中に火山泥流を含めて使っています。
 写真は雲仙普賢岳の噴火に伴って発生した泥流に埋まった家屋です(撮影:宇井忠英)。

6 空振

 噴火の際の爆発で振動が空気中を伝わることがあり、これを空振といいます。音として聞こえなくても窓ガラスやシャッターなどの振動で空振の発生が判ります。空振のエネルギーが大きい時は窓ガラスが割れることがありますが、火口に面した窓ではカーテンを閉めたり、窓ガラスに衝撃防止のシートや幅の太い粘着テープを貼ることで被害を軽減できます。
 写真は2011年2月1日の空振で破損した霧島市霧島支所のガラス窓です(撮影:坂之上浩幸)。
[2011/2/27 宇井忠英(北大名誉教授)]

 Q & A

Q: 小林市では噴石で車の強化ガラスが割れたそうですが、噴石のスピードはどのくらいなのでしょうか。

A: 標高1400mのところで噴いたものですから、かなりの加速度がつくでしょうが、一方で空気の抵抗もあり減速されます。したがって、時間が経つと一定になります。これを終末速度terminal velocityと言います。左記のサイトをご覧ください。初速度ゼロ、安山岩の密度を2.4とした場合、このサイトで計算すると、径1cmで約28m/s、径2cmで約40m/sになります。時速にすると100kmを超しますから、高速道路走行中の自動車並み、あるいは新幹線の半分くらいのスピードに相当します。ちなみに日本警察の9mm口径銃では初速261m/sとのことです。
 いずれにせよ噴煙が自分のいる方向にたなびき始めたら、火山灰だったらもうけものくらいに考えて、一応、噴石を警戒して物陰に隠れることをお薦めします。[2011/3/8 岩松 暉(鹿大名誉教授)]


質問の送り先:霧島市ジオパーク推進室[kiri-geopark@(←半角文字に替えてください)po.mct.ne.jp]


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